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  ◆第3章◆
 戦いの始まり 
 

 騒ぎのあった場から離れると、ウィルはメネットに色々と尋ねました。なりゆきで入団したとはいえ、大会のことはほとんどなにも知らないのです。今時そんな人がいることに、メネットは驚いたようでしたが、快く承知してくれました。
「話だけ聞くより、実際に見た方が分かりやすいわね」そこで二人はヴァレイの大通りを北から南へ歩いていきました。
「大会の由来になってる、世界を救った十四人の名もなき英雄の話は知ってる?」メネットの問いにウィルはうなづきました。大会のことは知らなくとも、アクラルに生まれてこの話を知らない人はいないでしょう。
「何百年か何千年か、とにかくうんと昔、世界は今とは随分違ってたそうね。その仕組みを根底から覆す事件が起きて、人間は滅びに直面した。それを救い、滅びの元凶を倒したのが十四人の騎士団……というけど、変な話よね。だってそうでしょ? 物語は百年にも渡るのよ。そうそう都合よく“若返りの泉”がある訳ないし、きっと実際には大勢の入れ替わりがあったのよ。そう思えば、英雄たちひとりひとりの名が伝わっていないのも納得がいくわ。きっと特定の誰かを英雄にしてしまうのを避けたんだわ」
 不意に人々の歓声が聞こえてきました。見れば、通りの開けた一角に垂れ幕が張り渡され、その下で大勢の人々がひしめいています。人垣の向こうで時折、雷や剣戟の音が響き、その都度、歓声が上がりました。
「対戦の“部屋”よ」メネットが言いました。「都中に設けられた、即席の闘技場。本当はなんか仰々しい名前があったみたいだけど、今じゃみんな普通に部屋って呼んでるわ。まあ分別のある話よね」
 二人が人垣をかき分けて“部屋”に入ると、二つの騎士団が戦っていました。その横では、これまた別の騎士団同士と思われる人々が話し合っています。そしてその周りをぐるりと観客が取り囲んで盛んに声を上げているのでした。
「騎士団は自由に“部屋”に出入りして、選んだ相手に挑戦して戦うの。三本勝負で先に二勝上げた方が勝ち」話している間にも勝敗が決したようでした。見ていると、一方の団員が相手側の団員を指差しました。差された方はうなづくと、陣形を離れ、代わって待機していた団員が加わりました。
「一戦ごとに駆け引きをより深めるために、ああして互いの団員を何人か外すの。“部屋”によって若干ルールの違いもあるんだけどね」
 人の入れ替えが済むと、再び戦いが始まりました。「あそこに立ってる人がいるでしょう? あれはお城の役人で、勝ち負けを記録して、騎士団ごとの点数を集計してるの。月に一度、一番高い点数を取った騎士団に栄誉が贈られるって訳」急に一段と大きな歓声が上がりました。試合の決着がついたのです。とどめの強烈な一撃は、一見大して力のなさそうな団員からでした。
「弱そうなふりして裏をかいたのね。あの騎士団、かなり慣れているみたい。行きましょう」
 少し行くと、今度は大きな立て看板に出くわしました。そこには沢山の騎士団の名前と、それぞれの団長のひと言が書かれていました。どれも勇ましいことばかりが書いてあります。ここにもやはり沢山の騎士団が詰め掛けていました。
「“ランキング掲示板”よ。さっきの“部屋”と違って、数ヶ所しかないわ。ここは、自分から挑戦に行くんじゃなくて、登録することで相手が来るのを待つための場所よ。“部屋”でいい相手が見つからなくても、ここで探せば大概見つかるわ。ここは時々仕切り直すから、“部屋”よりは一位を狙いやすいかもね」
 最後に二人は立派な石の建物の前にたどり着きました。入り口は開け放たれていて、ひっきりなしに人々が出入りしていましたが、よく見ると街人はほとんどおらず、大抵どこかの騎士団員のようでした。

「ここが騎士団の殿堂。すべての騎士団の憧れの場よ」
 中は薄暗く、一種、神聖な緊張感に満ちていました。ところどころ光が導かれている個所があって、そうしたところには決まって騎士団の絵や像が飾られていました。訪れた人々はそれに敬意、あるいは羨望の念を向けるのでした。前大会の折に設けられた一角に、あの魔騎士のカイム月光騎士団の名がありました。まさにここは力と栄光の歴史の記念碑でした。
「対戦や掲示板で名を上げた騎士団は、ここに永久に名を残すの。歴史の一部になることができる。……できるのよ」一通り見て回った後、メネットは溜息を漏らしました。ウィルが訳を問うと、しばしためらった後、メネットは口を開きました。「いずれ言わなきゃならないことよね」
 昔、ピーテン騎士団といえば、殿堂入りを有望視されるほどの存在でした。でもなにがいけなかったのか、次第に落ち目となり、入団希望も減っていきました。メネットが団長を引き継いだときには、定数を満たすことさえ困難な状況でした。
「ダルサスのやつらの言ったことは本当は正しいわ。でもそれでもあたしは諦めたくはなかった。だから、あなたを入団させられそうって思ったら、つい……ごめんなさい」
 急にウィルは魔女がとても小柄であることに気が付きました。ウィルは息を吐き出して言いました。
「騎士の務めは弱き者を護ること」それから笑顔で「もちろん困ってる人もね。そして騎士は一度言ったことは守るんだ。人が足りないなら、探せばいいさ」
 その言葉に一瞬顔を輝かせたメネットでしたが、すぐにかぶりを振りました。
「通りで声をかけても、みんなもうどこかに入団しているか、そうでなくてもピーテンの名を聞けば笑い飛ばすわ」
「まあ通りならそうかもしれないけど、でも例えば、そう、酒場とかはどうだい?」
「酒場? あたし、そんなところ、行ったりしない……」
 今度はウィルが驚く番でした。「それこそ一番望みがありそうなところだぞ。行こう!」
 店はすぐ見つかりました。王都一の大きさを誇るというその店は、その名もずばり『勇者たちの酒場』といいました。扉をくぐると、威勢のよい声が飛んできました。
「よう、ここは勇者と、その勇者を目指す野郎どもが酌み交わすための酒場だ」
 熱気でごった返す店の中は、騎士団員も沢山いましたが、そうでない人も大勢いるようでした。
「きっと、ここで見つかるよ」
 二人はうなづき合うと、店の奥へ入っていきました。