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  ◆第4章◆
 長い道の始まり 
 

 数週間が過ぎました。ピーテン騎士団は少しずつ、力を高め、勝利を得るようになっていました。そんなある日、一行が通りを歩いていると、行く手でなにやら人だかりができていました。
「……分からねえ奴だな。黙って譲りゃあいいんだ!」
 聞き覚えのある声に、ウィルとメネットは顔を見合わせました。人ごみの間から覗き込むと、大柄な戦士が小柄な魔術師を脅していました。
「ダルサスのやつらだ!」ウィルは思わず声を上げました。
「あいつら、またあんな……どうせまた、自分たちの都合を他人に強要してるんだわ。許せない!」言うが早いか、止めるひまもなく、メネットは飛び出していきました。
「やめなさいよ、このならず者!」すると、ダルサスの戦士も相手が誰なのか気付いたようでした。相変わらずのにやにや笑いを浮かべています。
「おやおや、こりゃまた懐かしい顔を見たぞ。何の用だ? とっくに田舎に帰ったと思ってたが」
「……“部屋”でもないのに、他の団と争うのはやめなさいって言ってるのよ!」
「なに、こいつらがな、弱小のくせに、“盾持ち”に挑戦しようってんで、身の程を教えてやろうとしてたところよ。そいつらの盾は俺たちが“統一”させてもらうんでな」
 “統一”というのは盾所持者同士が戦い、勝った側の盾の格が上がることでした。
「俺たちは最強を目指している。無駄な時間を過ごすつもりはねえのよ」そう言って、戦士は懐から例の盾を取り出してみせました。
 メネットはウィルにささやきました。「あたし、あいつらをこれ以上、のさばらせたくない。ねえ、あいつらに勝つことは無理かしら?」
 他の団員たちは尻込みしました。“盾持ち”を相手にする程には、彼らはまだ自信を付けてはいませんでした。でもメネットは諦めません。「うまく勝てれば、盾だって手に入る。そうしたら、あたしたちの点数はぐんと増えるし、その分、あいつらはそっくり失うことになるのよ?」
 ウィルはダルサスの方を見つめて、ちょっと考えてから言いました。
「やってみよう。やつらが強いのは間違いないけど、僕たちもこの前とは違う。それに今駄目なら、きっとこの先も駄目な気がする」
 戦士がいらついた口調で言いました。
「こそこそ、なんの相談だ? こっちは忙しいんだ。見逃してやるからさっさと失せな」「……あんたたちに挑戦を申し込むわ」メネットは声高に言いました。
「ああ? なんだって?」戦士は大仰な仕草で聞き返しました。「悪い冗談だぜ。おまえら、雑魚の寄り合い所帯が俺たち“盾持ち”と試合? 象は声が大きいだけの蟻なんぞ相手にはしねえ」
「もちろん挑戦された側は辞退する権利があるわ。前にあんたが言ったようにね。どう、この往来のど真ん中で逃げてみる?」
 戦士の顔から例のにやにや笑いが消えました。
「……いいだろう。二度と騎士団ごっこなんぞ、しようって気がおきねえよう、思い知らせてやる」

 挑戦成立です。手近な“部屋”に向かいながら、メネットたちは直ちに作戦を練り始めました。自分たちの限られた能力をどうやって組み合わせれば勝機が見えるか、これまでの成果が試される時がきたのです。ウィルが言いました。「やつらは僕らを甘く見ている。多分、馬鹿にして、力押しで来ると思う。うまく防ぎ切れれば……」
「持久戦ね」メネットはうなづきました。

 試合が始まりました。向こうは案の定、攻撃に重きを置いた布陣です。一気に押しつぶそうというのです。実際、一方的な展開になりました。でもメネットは動じません。「予想通りね。これで奴らの誰が強力なのかが分かったわ」メネットは直ちに彼らを戦列から外れるよう指名しました。
 第二戦も、向こうは攻撃偏重、対するこちらは攻撃力を犠牲にしてでも、防御と回復に重点を置いた配置を取りました。少しずつ相手の体力を削り取った結果、勝ったのはピーテン騎士団でした。これで一対一。いよいよ次が決戦です。
「これで……これで勝てば、あたしたち“盾持ち”よ。みんな、がんばって!」
 どちらもすでに主力は退場しています。しかしダルサス側が、一部の団員に依存してきたのに対し、ピーテン側は戦力が均等になるよう努めてきました。その結果、両者の力は今や、ほとんど変わらなくなっていました。
 試合は消耗戦のようでした。互いに決定打を欠いたまま、徐々に体力が減っていきます。それでもわずかにダルサス側が有利かと見えたとき……
「今よ、招喚を!」メネットが叫びました。すかさず、陣の二人が祈念するや否や、白熱した光が頭上に広がり、頭上に巨大な気配が出現しました。固い友情の絆に感応して、力と癒しをもたらす強大な招喚精霊が顕現したのです。これこそ、ここ一番のために秘めておいたピーテン騎士団の切り札でした。ダルサスの驚愕の表情と悲鳴とが光の中に消えていきました……

「勝った……」自分でもまだ信じられないといった面持ちでウィルは言いました。
「すごい、やったわ、ウィル! これであたしたち今日から“盾持ち”よ!」心の底から嬉しそうな声をメネットがあげました。相手は呆然として、その場にへたり込んでいます。メネットが彼らの盾を拾い上げようとしたその時……
「お待ち下さい」
 試合を監視するお城の役人でした。「あなた方の勝利を称えます。しかし残念ながら、盾を受けることはできません」
 メネットの表情が強張り、それからなにか悟ったように、うなだれました。「そんな、まさか……うそでしょう?」
「規定では勝者の盾を得るには、二十勝している必要があります。記録によれば、ピーテン騎士団の勝ち星は十二、まだその資格はありません」
 それを聞いて、逆に生気を取り戻したのは、例の戦士です。「ということは……」
「盾はダルサス剛力騎士団が、持ち続けることになります」役人は慇懃に言いました。
 戦士の顔にざまあみろと言わんばかりの表情が浮かびました。
「残念だったな、こうやって偶然や運だけに頼るやつは除かれるって訳だ。あばよ! 今回は油断したが、次はこうはいかねえぜ」戦士は盾を拾うや、郎党を引き連れて早々に去りました。とはいえ、その足が浮き足立っているのは明らかでしたが。
「あたしの失敗だわ」相手が見えなくなると、メネットは自分の頭を叩きました。「こんな初歩的なこと、知ってて当然なのに。みんなに無理させてまで得た勝利なのに、無駄になるなんて! なんて馬鹿なのかしら!」
「無駄じゃないさ。少なくとも、僕らはあいつらに勝ったんだから。それに盾のことなら、大丈夫、機会はまだいくらでもあるさ」
 他の団員たちも同じ気持ちのようでした。彼らは自力で“盾持ち”に勝ったのです。彼らの顔を見るうち、メネットの心にも明るさが戻ってきました。「……そうよね、まだこれからよね。さあ、もっともっと上を目指してがんばらなくちゃ!」
 それに応えてウィルたち団員全員が勝鬨を上げると、観客からも大きな歓呼の声が上がり、いつまでも消えることがありませんでした。


 こうしてピーテン騎士団のこの日の戦いは終わりました。明日からまた新しい挑戦の日々が始まります。そしてこれは、王都にひしめく数多の騎士団が織り成す物語、より大きな物語の一部をなす沢山の出来事のほんのひとつに過ぎません。いずれそれらの中から新たな伝説が生まれることもあるでしょう。しかしそれはまた別の話。今は、ひとまず幕を下ろすとしましょう。

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担当者
絵:氏縄勝之
文:奥田孝明


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