◆第2章◆

災難だらけの山登り


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派手な爆音を立てて火の粉が飛び散った。どんな頑丈な建物だって跡形もなく木っ端微塵。そう思って見たら、驚いたことに「門」はまだそこにあった。傷一つどころか、火にさらされた形跡すらない。
「へえ? ただの門じゃないって訳だ。面白いじゃないか」
 言うが早いか、次の呪文が飛んだ。結果は同じ。さらに次。炎、氷、雷、その他とにかく習い覚えたありとあらゆる魔法。全部、無駄だった。
「……むかつく門だねえ。こりゃ一筋縄じゃいかないね。って、ヴィヴィ、あんたなにしてんのさ」

「うん、門が越えられないなら、森から迂回できないかなってね」
「はっ、馬鹿だね。ご覧よ、百歩だってまともに進めるもんか。その点、こっちはこの門さえ越えれば、また普通の道さ。大体、本当に花があるかどうかだって怪しいもんさ。行きたきゃ止めないけど、あたしは残るよ」


「ニーザの言う通りだったかなあ」
 森に入って十分と経たない内に、あたしは後悔してた。木の枝は鋭い爪、葉はまるで刃のよう。ねじくれた根っこは足を取ろうとするし、藪の下からは蛇の群れ。不気味な形をした鳥が、しわがれ声と共に極彩色の唾を吐きかけてくる。言っちゃなんだけど、この山最低。
 でもあのままいたって通れるとは思えなかったし、なによりあたしは高帽子を諦めたくはなかった。
 なんとか方向だけは見失わずに進んだけど、目の前に緑の壁が現れた時は、さすがに悪態が口をついたわ。
「あらら、また随分と大きな壁……っていい加減にしてよね!」
 けっとばしたら、壁がうなり声をあげて動いた。ううん、正確には振り向いたんだ。それもそのはず、相手は石なんかじゃなくて、魔物だったんだから。空きっ腹を満たすことしか頭にない巨人。もちろん、まともにやり合ったって勝てる訳がない。ぺちゃんこにされる前にあたしは逃げ出した。
 ところが相手も思ったほど馬鹿じゃなかったみたいで、あたしは袋小路に追い込まれちゃった。咄嗟に魔法で蔦を手繰り寄せて、間一髪、よじ登って逃れたよ。でも巨人のやつ、下で喚いてばかりで諦めようとしない。登るしかないみたい。本当、なんてことかしらね。
 いたた、爪が割れそう。手のひらも裂けるわね、きっと。あたし、なんでこんなことしてるんだろ。言いつけ、試練、高帽子、大魔女の資格。そうそれ。力を手に入れて自由に生きる。そのためにはこんなところで死ぬ訳にはいかないんだ。

 やっとの思いでよじ登った先は平らで、大木が館のように寄り集まってた。あたしは暗いその隙間に入っていった。
 心地好い風と香りが頬をかすめた。今まで一度も嗅いだことのない香り。疲れと痛みが癒される感じ。あたしはそれが漂ってくる方に進んだ。
 不意に、開けた場所に出た。木々に囲まれて、ちょっとした広間みたい。優しく静かな空間は、あたしの立てる音に耳澄ませているみたいだった。進むにつれ、香気はどんどん強まっていった。
 はるか上の方から光が一点射し込んでて、あたしはそこを目指した。そしてそこに……
 柔らかい草と鳥のさえずりを抜けたその先、静寂と光の中心にひっそりと一輪。かすかに光を帯びた、白い硝子細工。あったよ。
 とうとう見つけた。
 あたしの高帽子。