◆第4章◆
お師匠様の採点


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「つまりお前は山の上には辿り着いたんだね。で、せっかく見つけたものをそのままにして帰ってきたと」
 お師匠様のもとに戻ったあたしは早速、旅の不首尾を報告しなきゃならなかった。ニーザはどっかいっちゃった。「直接見てきたあんたが言うべきさ」って。
 もちろん、嘘ごまかしが通じる相手じゃない。あたしは正直ありのままを話したよ。門のこと、聖域のこと。
 お師匠様の感情のこもらない視線に、あたしは身をすくませたけど、それでも言ったんだ。
「言いつけに背いた罰は受けます」ってね。
「よくお言いだね。覚悟はできているって訳だ」
 お師匠様は表情ひとつ変えない。沈黙がもの凄く怖い。でも仕方ない。それがあたしの選択だったんだから。
 それでも、お師匠様が手を振り上げたら、やっぱり思わず目を閉じちゃった。火の玉が飛んでくる? それとも文字通り雷が落ちるかしら? 蜂の群れ? 鉄の塊? それとも……??
 不意に頭に感じた感触はどれでもなかった。柔らかい手触りのそれは……


「高……帽子?」
「そういうことさ」お師匠様の声が上から降ってきた。「大きな力にはね、それ相応の心が求められるんだよ。今回のことは、……ま、不肖の弟子にしちゃ上出来ってとこさ」
 じゃあ、あの門はもしかして……思わず顔を上げたあたしに、すかさず厳しい声が飛んできた。聞きなれた、でもどこか新しい響きを含んだ声。
「勘違いおしでないよ! こなさなきゃならん試練はまだたあんとあるんだから。これは手付みたいなもんさ」
 それだけ言うと、あたしの返事も聞かずに、お師匠様は出てっちゃった。

 あたしはしばし呆気に取られてたけど、少しずつ、お師匠様の言葉の意味が頭に入ってくるにつれて、顔に笑みが広がるのを感じたわ。うれしかったなあ。初めてお師匠様に誉められたんじゃなかったかな。
 新しい高帽子は心地好かったけど、もう以前ほど関心はなくなってた。これはただの記号、結果に過ぎない。あたしの何を変える訳でもない。本当に必要なものはあたし自身の中にある。帽子よりずっと強くてしなやか。そう考える自分にちょっと驚いたけど、悪い気はしなかったわね。
 そうそう、悪い気がしないっていえば、あたしはその後、鏡の前に立ってみたんだ。そこにはまだまだ青い駆け出しの魔女がひとり立っていた。でもその目の輝きは悪くなかったと思う。“それ相応の心”。でも少しくらい、楽しんだっていいよね。
 あたしは帽子をかぶり直してみた。うん、結構、似合ってる。ニーザの悔しがる顔が浮かんだ。ふふ!
 あたしは鏡の自分にウインクした。
「せっかくの人生、楽しく生きなきゃね!」

絵:氏縄 勝之 . 磯 桂子

文:奥田 孝明

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