1/4page ◇◇◇



「娘のアルヴィだ。仲良くしてやってくれたまえ」
 市長から紹介されたときの第一印象は、とにかく気が強そう、だった。そしてそれが間違いではないことは、すぐに思い知らされた。
「スルギ……ふうん、変な名前ね。サムライってみんなそうなのかしら」
 変な名前! 親から授かった名前を、言うに事欠いて、こんな風に評されるとは!
「アルヴィ、そんなこと言うもんじゃない。すまんね、スルギ君、この通り、遠慮を知らない子でね」
 市長の小言もどこ吹く風。
「スルギ、あなた、随分と髪が長いわね。市の服装規定に引っかからないように気を付けなさい!」
「父上、お話というのはなんでしょう?」
「うむ、知っての通り、我がウォスマ家は代々、フェルミナ市長の警護役を務めて参った。そなたもいずれその任を負うことになろうが、そろそろその備えをと思うてな。市長のご息女の警護を任せようと思うのだ」
「拙者にあの女、あ、いやアルヴィ殿を警護せよとおっしゃるのですか!?」
「いかにも、息子よ。当主として命ずるゆえ、拒むことは許さぬぞ。幸い、そなたとアルヴィ殿は年も近い。お互い、年長者相手よりも気安かろう。今より、彼女がそなたの主だ。これも修行、見事勤め上げてみせよ」
 こうして新たな日課が加わった。正しくは一日の大部分がそれに変わった。なにせ朝から晩まで市内のあちらこちらを巡って回る。当然、一日仕事となる。
 口を開けば、規則、規則。実に些細なことまで、市民の暮らしにいちいち口を挟む。
 規律が保たれるのは大変結構。しかし何ごとも程度があるのではないか?
 そう思って、ある時、口を挟んだところ、その法の全文に始まり、成立の経緯や運営の実態に至るまで、延々と聞かされる羽目になった。二度とすまい。
 しかし市の法の定めるところによれば、女は市長になれぬはず。実子といえどそれは同じ。ならば彼女は何をしているのだろう。そんな彼女に仕えることにどんな意味があるというのだろう。市長本人ならいざ知らず、彼女を狙う者がいるだろうか?
 ある日、珍しく所用でひとり出かけることがあった。戻ってくると、飛び出してきた彼女と鉢合わせになった。何ごとかと尋ねるより早く、猛烈な勢いで走り去った。
 一瞬呆気に取られたが、彼女が持っていたものに気付いて血の気が退いた。
「拙者の刀!!」
 持っていかれたのは、サムライの太刀。己の魂。よりにもよって、なんたる不覚! なぜ置いていったんだったか? 確か規則がどうとか……
 慌てて後を追ったが、見失ってしまった。幸い、程なく見出すことができた。通りをこちらにゆっくり戻ってくる。どうやら、なんであれもう終わった後らしい。
 肩で息するその手には太刀が握られていた。ただし、誰の目にもはっきりと分かる形で、折れ曲がっていた!
 血が頭に昇るのを感じた。いかなる理由があるにせよ、正さずにはおかぬ!
「アルヴィ殿、その刀は父より賜ったもの。それをその扱い、訳を聞かせていただきたい」
 彼女の答えはあらゆる予想を越えていた。
 なんと彼女は無言で刀を寄越すと、そのまま脇を通り抜けて行ったのだ! あまりのことに、怒りすら忘れた。
 怒りと共に正気に戻り、振り返った時には、もう彼女の姿はなかった。
 訳が分からない。これが主に仕えるということなのか? ただ理不尽に耐えることが? こんなことがこれからも続くのか? これがサムライの道!? まさか!
「父上、お恨み申し上げますぞ……」