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「ではな、息子よ。留守中、しっかり勤めるのだぞ」
 市長の外遊に付き従い、父が街を離れて数日。
 幸いくだんの太刀は打ち直すことができた。しかし、あれ以来、ただでさえ険悪な二人の関係は、一段とぎくしゃくしたものになっていた。
 ある夕暮れ時、部屋の扉がけたたましく開かれた。
「スルギ、来てちょうだい。通りで怪しげな連中を見たの。会話も変だった。よくない企みをしてるのよ、間違いないわ」
「間違いないのなら、しかるべき筋に相談しては? 市長のお付きとか……」
「シュパン? 駄目よ、全然取り合ってくれないの」
「警備兵がいるでしょう。第一、拙者の務めはアルヴィ殿の警護であって、街の治安ではござらん」
 また太刀を折られでもしては敵わない。
「じゃあ、結構よ! あたしひとりで行くわ!」
 止める間もなく、小さな嵐のように出て行ってしまった。どうしてなんでも自分でやろうとするのだろう。小娘ひとりにできることなど、限られているだろうに。
 なんとなく落ち着かず、通りに出てみた。既に彼女の姿はどこにもない。不意に幼児を連れたひとりの婦人から声をかけられた。
「おや、あんたアルヴィちゃんの家来だろ? ひとりとは珍しいね。今日はご主人様はお休みかい?」
 家来という物言いが引っかかったが、努めて顔に出さぬようにした。
「この間は、うちの子を助けてもらってありがとうよ。アルヴィちゃんによろしく言っておいておくれ」
「助けた? なんの話……」
 婦人は知らぬはずがない、という表情で続けた。
「通りに魔物が現れてね。まだ小さいやつだったけど、そいつがうちの子を襲ったのさ。それをあの子が護ってくれたんだよ」
「魔物を!? アルヴィ殿が!?」
「そうさ。刀で必死に切りつけてね。あたしらが駆け付けるより早く、追っ払ってくれたのさ」
 では太刀が折れたのはそのためか!? しかしそれなら、なぜ彼女はそう言わなかったのだろう?
 すると、周囲から口々に声が挙がった。
「役人が余計に税を取ろうとするのを止めてくれたよ」
「医者を格安で手配してくれたっけなあ」
「重い荷物を抱えている時に……」
 最初の婦人が、分かったろう、という風に言った。
「みんな、あの子には感謝してるよ。そりゃ、ちょっと愛想がないかもしれないけど、一生懸命だからね」
 分からない。一体、みんな誰の話をしているのだ!? 自分の知っているあの娘は、身勝手で失礼で人に頭を下げることを知らない人間で……
「ねえ、あんた、あの子を護っておあげよ。可哀想に、市長の娘なんかに生まれたばかりに、なんでもかんでも背負い込もうとしてるじゃないか。誰かが支えてあげなきゃね」
 市長の娘に生まれたのが可哀想!?
「それにしても魔物が街中に出るなんざ、長いこと生きてきて、初めじゃな。どこから入り込んだんだか。わざわざ招き入れでもしなきゃ、無理そうなもんじゃが」
 不意に彼女の言葉が脳裏に浮かんだ。怪しげな連中を追う、そう言っていたのではなかったか? 慣れない刀で魔物を追い払い、今また……。嫌な予感がした。
「失礼だが、どなたか最近、不審な集団を見かけた方はござらぬか?」
 すぐ応える声があった。礼もそこそこに走り出す。頭の中はごちゃごちゃのままだったが、それより先にすべきことがあった。
 無事だといいが。

 その頃、街外れの廃屋の様子を窺う影があった。
「……見つけたわ。見張りがいる、間違いないわね」
 そして暗がりをぬって、そっと忍び込んでいった。