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 肉の裂ける音、そして苦鳴が響いた。だが苦痛はない。では彼女が!?
 いや無事だ。それでは!?

 音の出所は魔獣だった。血を流し、力なく横たわっている。袈裟懸けに走る鋭い傷。一目で致命傷と分かる。
「よう踏みとどまったの、スルギ。上出来ぞ」
 傍らから声がした。見慣れた高い背。手にした抜き身には一滴の血も付いていない。
「ち、父上? なぜここに!?」
「アルヴィ殿から知らせを受けての。間に合うてよかった」
「アルヴィ殿から!?」
 父は答えず、高らかに笑い、出て行った。

 父が手配したのか、慌しく警備兵たちが入ってきた。入れ替わりで外に出る。
 彼女が戸口の前に立っていた。
「スルギ、ありがとう」
「いえ、すべて父の手柄でござる。警護役といいながら、結局、なんの力にもなれず……」
「そんなことない! あなたが来てくれてなかったら、間に合わなかったもの。本当よ、ありがとう」
 なんとも居心地の悪さを感じた。どう答えたらいいのだろう? なにか言おうとするより先に、彼女が続けた。
「スルギ、あなた分からないことがあったから来たって言ったわよね。それってなあに?」
 なんだったか。ああそうだ。もうどうでもいい気がしたが、一応、口にした。
「どうして刀を折ったとき、魔物のせいだと言わなかったんです?」
「だって……街の人がいたからよ」
「街の人?」
「市長の娘は間違いをしちゃいけないの! 人に規則を守らせる人が頭を下げるのを見たら、誰もいうことを聞かなくなるでしょう? だから……」
「……」
「本当は後で謝ろうと思ってたんだけど、あなたもの凄く怒ってたから、機会が見つからなくて……ごめんなさい」
 いつになく彼女が小さく見えた。あの街の婦人の言葉が脳裏をよぎった。なにもかも背負い込もうとしている。こんな小さな身で。
「完璧な人間なんか、いるものでしょうか」
「それでも、あたしは市長の娘だから。あたしはフェルミナを、フェルミナに暮らす人たちを守るの。例え市長になれなくったって、関係ないわ。みんなが安心して暮らせる街、規則! そのためなら、どう思われたって構わない」
 なんという矜持。なんという誇り。刀を扱えずとも、彼女は戦う人、幼い身でありながら、既に道を定めていた。ならば、サムライの、いや己自身の取るべき道は!?
「なら拙者はその人をお守りします。この剣にかけて」

 すると彼女は笑みを浮かべた。初めて見せる柔らかな表情。いや、他の誰であれ見たことはないに違いない。そう感じた瞬間、心の深いところで、なにかが動いた。決定的ななにかが。
「スルギ、強くなってね。もっともっと、魔物も悪人も敵わないくらい強く」
 そうだ。今はまだ技も心も父に遠く及ばない。だがいずれ。
 その後、数え切れないほど口にすることになる言葉が、初めて自然にこぼれた。
「御意」
絵:氏縄 勝之 . 磯 桂子

文:奥田 孝明

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