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「さて、なぜ“これ”を知っているのか、答えてもらおう」
 “青の館”の一室で豪華な衣装に身を包んだ小男が低い声で言った。その足元で、手下に左右から押さえつけられたレオが呻く。
 なにがどうなっているのか。
 例の首飾りの図を見せ、心当たりを尋ねたところ、奥の部屋に通され、入った途端、男たちに取り押さえられた。やがて現れた館の主人の胸元で青く輝いていたのは、紛れもない、あの首飾りだった。
「“これ”の秘密を知るのは私ひとりでよいのだ。言え、あの図はどこで手に入れた? お前は何者だ? 答えなければ、腕を折るぞ」
 秘密と言われても、レオには答えようがなかったが、主人はそれを拒否と理解した。合図でレオを押さえつける力が強まった。骨が軋んで苦鳴が漏れる。
 突然、窓が破れる派手な音と共に、肩にかかる圧力が消えた。うんざりするほど聞き覚えのある雄叫びに続いて、閃光が走る。魔法の輝き。
「オルガ!? ミレッタも!?」
 大きな腕を振り回して相手をぶっ飛ばすその姿は間違えようも無い。その傍らで杖をかざす小さな魔女も。
「お前ひとりじゃ、うまく行きっこねえからな!」
「なに驚いてんのさ。あたしたちは仲間なんだ。当然だろ?」
「……遅い! ダサい!」
 思わずほころびそうになる顔を慌てて引き締めようとしたが、二人の様子では失敗したらしい。照れ隠しに手近な敵に殴りかかる。
 幸い相手は大した人数ではない。不意打ちも功を奏して、たちまち形勢は逆転した。館の主人が後ずさる。その胸の青い輝きをレオが見咎める。
「動くな!」
 飛び掛るレオを見て、主人は身を退いたが、首飾りは一瞬遅れた。レオの手がそれを掴む。鎖が弾けちぎれる小さな音が響いた。
「こ、このネズミめが! 返せ! それがないと……」
 突如、主人がもがき苦しみだした。溺れているかのように、激しく喉をかきむしる。


「!?」
 三人が驚いて見つめる中、主人の体はみるみるうちにしなび、苦鳴もかすれていった。よろめき均衡を失い、倒れた時には、事切れていた。それで終わらず、あっという間に肉が消えていく。遂に残ったのは、とうの昔に死んだとしか思えぬ、干からびた骨の山。衣服だけが変わらぬ姿で、まとわりついていた。
 それを見た取り巻き共が、口々に悲鳴をあげ、這いずるように逃げていったが、三人は呆然と立ち尽くしていた。“これの秘密”……
 強張ったレオの手の中で、宝石が冷たい光を放っていた。

「……なんだか後味が悪いぜ。おい、それ大丈夫なのかよ? おかしな呪いとかよう」
「あたしも初めて見るけど、呪いとかそういう悪いものじゃないみたい。不思議な力を感じるよ」
 レオは首飾りを手の中でひっくり返してみた。何度見ても、廃屋で見つけた図と寸分違わない。ただ裏になにか文字が刻まれている。
“時計塔の少女に捧ぐ”
 三人は顔を見合わせた。
「時計塔!? 時計塔って……やっぱりあれのことだよなあ」
「それじゃ、その主ってことは、“あいつ”か。“あいつ”が幽霊の……!」
 ぎこちなく向けられた三人の視線の先、屋敷の高い塀よりも高く、スクーレの時計塔がそびえ立っていた。
 鐘が夕暮れの時刻を告げた。