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「それにしても、あの小娘がやりおおせたとは、どうにも信じられねえ。なにか……そう、助けでもなきゃあよ」
 ギルドの建物の中、“僧侶”の蛇のような視線を、私は受け流した。
「魔物を倒したのは確かにアリエノの術だった。私じゃない」
 なにもしていない訳ではないにせよ、少なくとも嘘は言っていない。なんであれ、この男を喜ばせてやるつもりはなかった。
 相手もそれが分かったらしい。不満そうに鼻を鳴らす。
「……ふん。まあいい。別に誰も損はしてないんだからな。重要なのはそこよ。分かるだろう?」
「またな」
 私はギルドを後にした。なんとなく胸がすっとするのを覚えた。

 通りを歩いていると、背後から声がした。
 振り返ると、なにやら見覚えのある人影が追いかけてくるのが見えた。アリエノ。
「まったくニンジャってのは、歩くのも速いの!?」
 いかにも運動慣れしていない、という風に息を切らせ、切れ切れに彼女は言った。魔物を相手にしていた時は、もっと激しく動いていた気がしたが。呼吸が落ち着くと、真っ直ぐ私を睨みつけた。
「聞いたわよ。あんた、資格がないとか言って、報酬の分け前を受け取らなかったそうじゃない。なんのつもり? あんたがしたこと、あたしが気付いてないとでも思ったの? お情けなら大きなお世話よ」
「私の仕事は、あんたがしくじった後で、魔物を倒すことだった。だけど、あんたはしくじらず、私は働いていない。別に嘘はない」
「わざわざ、お金もらう機会を捨てるなんて、変人のすることよ。言われたことない?」
「別に」
 分不相応の富。私の信条に、あるいはアリエノなら同意したかもしれないが、あえて言う気もなかった。
 驚いたことに、アリエノは肩をすくめ、あっさりと矛を納めた。
「じゃ、いいわ。ありがたく全部もらっとく。学費の足しにさせてもらうから。意外? あたし、貯めたお金で学校行ってるの。もっともっと強くなってみせるわ!」
 私は彼女を見た。こんなに柔軟、したたかな娘だったろうか?
 あの一戦が、なにか彼女を変えたのかもしれなかった。魔法もまた支えは心の強さだと、聞いたことがある。あれが自信につながったのなら、彼女のためには結構なことだった。
 彼女がこの先もやっていけるかは分からない。上達より先に運命が彼女を捕えるかもしれない。それでもアリエノは選んだ。運がよければこれからも、あるいは。
 いずれにせよ、もう私には関わりのないことだった。今回の仕事は終わったのだ。
「話はそれだけ? じゃあ私は行くよ」
 すると、アリエノは一瞬ためらってから、言った。
「ユマ……その、ありがとう。借りができたわね」
 不意に彼女の家で見た時のアリエノに戻ったようだった。精一杯の強がりで隠された無防備さ。
「いいさ、気にするな」
 以前なら、これで終わりだったかもしれない。しかし彼女は続けた。傍目にも必死ではあったけれど。
「それでその……ついでと言ってはなんだけど……、実はまた仕事を受けたの。ふたりがかりくらいがちょうどいいんだけど」
 こちらの表情を窺うように上目遣いで見る。
「……一緒にやらない?」
 その仕草は私の中の懐かしい部分に触れて小さな音を立てた。随分、長いこと忘れていた感情を、私は思い出した。それはとても小さかったけど、暖かく……
 私は微かに唇の端で微笑みながら言った。
「報酬は半々で」




絵:氏縄 勝之 . 磯 桂子
文:奥田 孝明
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