ひゅん!
 矢が音を立てて飛んだ。だが押し寄せる魔物たちの上げる土煙に吸い込まれ、果たして当たったやら、まるで見えぬ。後に続いた矢も同じ。一向、魔物は止まらない。
 どうも嫌な感じじゃ。兵士たちも浮き足だっておる。
 それでも、わしと城壁が魔物を受け止めれば、その間に兵士たちも撃退することができるんじゃないか。まだわしはそんな望みを抱いておった。
 甘かった。
 稲光の閃きに浮かび上がったのは、禍々しい翼を持った魔物たち。地上を進むやつらと同じくらい沢山おる。やんぬるかな! やつらは軽々とわしの上を飛び越えていきおった。兵士たちが口々に叫ぶ。
 一匹くらいなら、どうにかなったろうが、いかんせん数が多い。兵士たちはすっかりおたついてしもうた。空飛ぶ魔物を追って街の方へ走っていく者、城壁の上でどっちを向いたものかおろおろするばかりの者。すぐにまともに迎え撃つ者はいなくなった。
 抵抗がなくなるや、魔物どもはあっという間に、間近に迫った。すぐに都の外はひしめく魔物で埋め尽くされた。
 金属と石が砕け散る、耳障りな轟音が響いても、意外なことに、わしはまだ建っておった。魔物どもは、格子の部分だけを突き破ったんじゃ。だがそれで十分。格子のない門は、開け放たれた入り口じゃ。もう侵入を阻むことはできぬ。
 その時、忘れ難くも、思いがけないことが起きた。
 どこからともなく、見慣れない人間の一団が現れるや、颯爽と魔物どもの前に立ち塞がったんじゃ。先頭を切ったのは大きな剣を背負った男。大理石のごとき白い肌をしておった。彼に率いられた者たちの動きの見事さよ。大地にかけて、都の兵のそれではない。


 とは申せ、人間には違いない。猛り狂う魔物相手にどこまで通用するのやら。そんなわしの心配は杞憂じゃった。彼らは実に戦い慣れておった。巧みな陣形で相手の攻撃を受け流し、次々と仕留めていったんじゃ。
 この手痛い反撃に魔物どもの勢いは目に見えて衰えていった。
 あちこちで気勢を上げる声が響いた。彼らに励まされた都の人間たちが再起した声じゃった。
 やがて、遂に魔物どもは退散し、都を覆っていた暗雲もいつの間にやら消え失せておった。魔物どもを駆り立てていた、あの異様な力の感じもなくなった。それでわしは悟ったんじゃ。
 王都は救われのだ、とな。
 彼らは騎士団と呼ばれておった。どこから来たのかは知らぬ。ただこの時から、彼らは王都を根城にするようになったんじゃ。あの白い男は団長と呼ばれておった。
 団長というのは不思議な男でな。人間のはずなんじゃが、他のやつと違って、いつまでもおる。いなくならん。人間というより、わしらに近い感じがした。多分、いくらかは人間ではない部分があったんじゃろう。
 もうひとり、これまた白さではひけを取らぬ娘がおって、こちらはもう丸ごと人間ではないんじゃ。なにか大層古い力が形を成しておるようで、わしには判じかねた。並みの人間たち同様、どんどん入れ替わっていく騎士団にあって、この二人だけがずっと変わらず存在しておった。
 もちろん、この二人とて、わしの声が聞こえる様子はなかった。しかし、それでもなにやら新しい友人ができたような気がして、わしはこの二人が好きになった。もっとも、彼ら自身は仲が良いのか悪いのか、なんともつかみ難いものがあったがのう。人間というのはしばしば、実にややこしい“やりとり”をするものじゃが、これはとりわけ訳が分からなかったわい。
 後に聞いたところでは、あの王都を襲った異変は、いにしえより予言されていた災いだったそうじゃ。騎士団はその災いと戦っておったのじゃな。そしてお陰をもって災いは防がれたという訳じゃ。
 その後も、他の街をその災いが襲う、ということがあったようじゃが、騎士団は首尾よくやったようじゃ。
 あの時、たくさんの家屋が焼け落ちたヴァレイも、新たに建て直されて、災厄前の活気を取り戻した。もちろん、わしも修繕され、前よりさらに頑丈になった。
 騎士団のお陰で安心して暮らせる。人間たちはそう思っとったし、わしもそう思った。
 じゃが、もう一度、災いがやってきたんじゃ。それも度外れなのがの。
 世界そのものが砕けたんじゃよ。